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東京地方裁判所 昭和44年(タ)54号 判決 1970年9月26日

原告 岩井A

原告 岩井B

原告ら訴訟代理人弁護士 小林象平

被告 東京地方検察庁検事正 布施健

主文

原告らがイラン国人亡ラスウル・ザデ・パシア(RASSUL ZADEH PASHA一八九六年三月九日生)の子であることを認知する。

訴訟費用は国庫の負担とする。

事実

一  当事者の求める裁判

原告ら―主文の同じ

被告―請求棄却

二  原告らの請求原因

1  原告らの母岩井ハナは、昭和二一年一一月から、イラン国人で貿易商を営むラスウル・ザデ・パシアの経営するラスウル商会に店員として勤務することになった。

2  岩井ハナとラスウルは、昭和二二年四月一七日、右ラスウル商会の一室で肉体関係を結んだが、その後岩井ハナが妊娠したため、ラスウルは、同年一一月岩井ハナのため、原告ら肩書地に土地家屋を購入し、岩井ハナをそこに移転させた。以来ラスウルが死亡するまで両者の内縁関係が継続した。

3  岩井ハナは、ラスウルの子を懐胎して、昭和二三年二月二四日原告A、同二五年一月三日同Bを分娩した。

4  ラスウルは原告らを愛育して来たが、原告らを認知しないまま、昭和四一年二月一六日死亡した。

5  よって、原告らが亡ラスウル・ザデ・パシアの子であることの認知を求める。

三  被告の認否

原告らの請求原因事実中、岩井ハナが原告らを出生した事実、ラスウルが死亡した事実は認め、その他の事実はすべて不知。

四  原告らの証拠≪省略≫

理由

≪証拠省略≫を総合すると、原告らの母岩井ハナは、昭和二二年四月一七日、イラン国人ラスウル、ザデ・パシアと肉体関係を結ぶようになり、以来両者の事実上の夫婦関係が続けられ、その結果岩井ハナは懐胎し、昭和二三年二月二四日原告岩井Aを、同二五年一月三日原告岩井Bをそれぞれ分娩したこと、ラスウルは原告らを認知しないまま、昭和四一年二月一六日死亡したことが認められる。従って、原告らはラスウル・ザデ・パシアの子であることが認められる。

二 法例第一八条によれば、認知の要件は認知各当事者間の本国法が総合的に適用されることになるから、本件の場合、日本国民法とイラン国の法律が適用されることになる。ところで、イラン国民法(昭和三二年一月イラン資料第一九輯イラン国民法第二、第三巻日本イラン協会発行参照)には、子が父の死後において父に対し強制認知を求めることを認容した規定はなく、また認知の法律関係について反致を認める規定もない。しかし、嫡出でない子が法律上自らの父を定め、戸籍に父を記載されることは、子にとって重大な意義を有することであり、このための唯一の方法である認知の訴を許さないことは、わが国においては法例第三〇条にいう公序良俗に反するものといわなければならない。従って、本件について、前記イラン国法の適用を排斥し、日本国民法を適用するのが相当である。

三 そうすると、原告らが亡ラスウル・ザデ・パシアの子であり、ラスウルが原告らを認知しないで死亡したことは前記認定のとおりであり、ラスウルの死亡の日から三年以内である昭和四四年二月一二日に本件訴が提起されているから、日本国民法により原告らの請求は理由がある。

よって、原告らの請求を認容し、訴訟費用の負担について人事訴訟手続法第三二条、第一七条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 橋本攻 裁判官 三浦伊佐雄 井垣敏生)

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